ロックマンゼロ2SS

エルピスのらぶらぶ大作戦




それはミッションが一区切りついて、ゼロが時間を持て余していた日のことだった。

「わあ、エルピスって上手ね」
「いえいえ、そんなことないですよ」
ゼロがシエルの部屋へセーブをしにやって来ると、扉の向こうからシエルとエルピスの話し声が聞こえてきた。
ゼロは怪訝に思いながらも、部屋に入る。
「お帰り」
シエルはいつもどおりの笑顔でゼロを迎える。
いつもならゴーグルをして研究をしているはずだが、今日はゴーグルをつけていない。
椅子に座るシエルのそばには、エルピスが椅子に座ってゼロを見ている。
エルピスは笑顔で会釈をする。
「これはこれは、ゼロさん。ミッションがなくて、さぞやお暇でしょう。じきに何かしらミッションをご用意いたしますから」
「別にかまわんぞ」
ゼロはさして興味がなさそうに言う。
「今ね、エルピスと・・・」
「いけませんよ。シエルさん」
エルピスは口元に指を当ててウィンクする。
「私とシエルさん、二人だけの秘密ですからね」
「ふふ。そうね」
シエルも口元に指を当てて同じポーズをとる。
「それではシエルさん。また明日」
「ええ。楽しみにしてるわね!」
エルピスはすれ違いざま、にっと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「?」
ゼロは内心怪訝に思ったが、深く考えずシエルのそばに立つ。
「何をしていた?」
「秘密」
シエルはくすっと笑って、口元に指を当てる。
「・・・セーブさせろ」
エルピスの意味ありげな態度は気になったが、シエルが話したくないなら、無理に聞くこともないだろう。
そう思って、ゼロはシエルにいつもの用事を頼んだ。




次のミッション準備まで時間がかかるというので、ゼロはベースの屋上で昼寝をして時間を潰していた。
一応セーブをしておくかと、シエルの部屋に向かう。
コマンダールームから通じる廊下に入ると、アルエットとばったり出くわした。
「あっ、ゼローーっ!」
アルエットはゼロに駆け寄ってくる。
「シエルお姉ちゃんのお部屋に行ったらね、エルピスがいて、今は取り込み中だから後でって言うの」
「そうか」
今、シエルの部屋にエルピスがいることは、ゼロも知っていた。
あの日から毎日のように、エルピスがシエルの部屋へやって来て、二人で何かをしているようだった。ゼロは気にならないわけではないが、あえて無関心を装って様子を窺っていた。
「そうかじゃないよ!」
アルエットはぷんぷん怒る。
「あの司令官が一緒にいたんだよ!でもエルピスは一緒にいてもいいみたいなの!」
「嫌いなのか」
「だって、なんか好きになれないもん。ゼロだってそうでしょ?」
「さあな」
たいして興味がなさそうなゼロにアルエットはじ〜っと面白くなさそうな目を向ける。
「ゼロ。シエルお姉ちゃんを取られてもいいの?」
「・・俺にそんなこと聞いてどうしろっていうんだ」
そう言いつつ目はシエルの部屋の方を向いている。
「やっぱり気になるくせに・・・」
アルエットはぽそっと呟いた。
その時、扉が開いてエルピスが部屋から出てきた。
笑顔だったが、ちょっとひきつっているようにも見える。
エルピスはゼロとアルエットに気がついた。
「おや、これはこれは・・・ゼロさんではありませんか」
だが、その目は明らかに、会って嬉しくなさそうな雰囲気を漂わせていた。
「用事はすんだのか?」
ゼロが尋ねると、エルピスはにっこりと笑ってみせる。
「いやあ。楽しかったですよ、シエルさんと二人っきりの時間は」
と、二人っきりの時間という部分を強調して、エルピスは言う。
「では、また」
颯爽と歩き去るエルピスの後姿に向かって、アルエットはこっそりと舌を出していた。
無論、ぬいぐるみで口の部分は隠れているので、誰にも見えなかったが・・・。




「シエル」
ゼロはシエルの部屋に足を踏み入れた。
「あら、ゼロ。アルエットと一緒だと思ったわ」
「?」
振り向くとアルエットは一緒についてこなかったようだった。
おおかた飽きてどこかに遊びに行ったのだろう。
「用事はすんだのか?」
「ええ」
シエルは満面の笑みを浮かべる。
「エルピスのおかげで助かったわ」
「そうか」
そう言ったものの、ゼロは内心ちょっとエルピスの言葉が引っかかっていた。
「ねえ、ゼロ。こっちに来て」
シエルはゼロを手招きする。
「ほら、これ」
シエルが見せたのは、フェルト生地でできた手のひらサイズのゼロとシエルの人形だった。
「エルピスが人形作りが得意だって言うから、教わったのよ」
「人形作り?」
「ええ。彼、ネオ・アルカディアにいた頃から裁縫が得意だったそうよ。特に人形作りは得意中の得意だったみたい」
「・・・意外だな」
「私、猫とか動物のぬいぐるみは作るの得意だけど、こういった人の形をした人形って作るの苦手だったから、エルピスに教わったの。どう、似てる?」
「ああ」
人形は二人の特徴を上手くディフォルメされて再現してある。
「最近ゼロやアルエットを遠ざけてごめんなさい。最初は何度も変なのが出来上がって、ゼロたちに見られるのが恥ずかしかったから・・・」
「そうか」
「でもそのかいあってよく出来てると思うでしょ?エルピスもね、とても上手く作れましたね、もっと時間がかかると思っていましたって・・・。ゼロも、これを見たらきっと喜ぶって、言ってくれたのよ」
ゼロは先ほどのエルピスを思い出す。エルピスがシエルを好きなのは、ゼロにもわかっている。
多分、人形作りの最中、シエルに思い切りのろけられて、ショックを受けたのだろう。そう思うと快感だった。
シエルは人形を机の上に置くと、ぴたっと寄り添わせる。
「何故わざわざくっつけるんだ?」
「だって、私の人形はゼロの人形のそばにいたいと思ってるからよ」
シエルは立ち上がると、つつっとゼロに寄り添った。
「人間の私もね」
「・・・・・・」
ゼロは何も答えない。だが、自分から離れないということは、了承の意味だと解釈して、シエルはゼロに微笑みかけた。
こうして、いつまでも一緒にいられるといいな。
そう心の中で願いながら・・・。




その頃。
「邪魔しちゃいけないから、しばらくここにいようね」
アルエットは倉庫の片隅に隠れながら、ぬいぐるみに話しかけていた。
そこへ扉が開く音がして、誰かが入ってくる。アルエットはコンテナの影に身を潜めた。
「シエルさ〜ん・・・・」
おぼつかない足取りで入ってきたのは、エルピスだった。
エルピスは30cmぐらいのシエルの人形をぎゅっと抱きしめている。
アルエットも知らないことだが、エルピスはこっそりシエルの部屋に盗聴器を取り付けていたのだ。が、今までの会話をしっかり聞いてしまってすっかり落ち込んでいるのである。
「あなたはやっぱりゼロがいいんですか〜〜。あんな男のどこがいいんですかあ〜〜」
エルピスはシエルの人形にぶつぶつと話しかけている。
「本当は・・・こんなつもりではなかった。らぶらぶ大作戦は失敗です」
エルピスのらぶらぶ大作戦。それは人形指導にかこつけて、シエルと接近してらぶらぶ状態になり、その仲をゼロに見せ付けてくやしがらせる作戦だった。
しかし・・・。
結局シエルが作ったのはゼロとシエルの人形で、教えている最中も、シエルはゼロののろけ話ばかりをするので、エルピスはそのたびに心をハンマーで思い切り叩かれているような衝撃を受けていたのだ。
シエルのゼロへの愛を見せつけられ、自分は完全にアウトオブ眼中だと痛感した。
「でも、私は負けません。いつか必ずあなたを振り向かせてみせます」
エルピスは、シエルの人形と同じ大きさのゼロの人形を取り出すと、その頭を変形するのもおかまいなしに、むぎゅ〜〜〜っとつかんだ。
「ゼロ・・・正義の一撃作戦が成功するまではせいぜいシエルさんと仲良くして夢を見ているといい・・・。最後に勝つのは私です。ふふふふふ・・・・・・」
エルピスは不敵な笑みを浮かべた。
「ちょっと強くて戦えるからって、いい気になって、シエルさんの部屋に入り浸って、シエルさんといちゃついて・・・。あのすましたいけすかない顔といい、お高くとまった態度といい、にっくきハルピュイアそっくりで本っ当に許せません〜〜」
と、ぶつぶつとゼロの人形に向かって、エルピスは恨みつらみの言葉を吐き始める。
やっぱりあの司令官好きになれないわ・・・。
その様子を見ていたアルエットは心の中で思った。









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