ロックマンゼロ4SS

バレンタインキス



「ゼロ〜。ゼロ〜。起きてよ〜〜!」
屋上で昼寝をしていたゼロを、誰かが揺すってくる。
ゼロが目を開けると、アルエットがじいっと顔をのぞきこんでいた。
「・・・なんだ?」
「うふふ。おはよう、ゼロ!」
「・・・・もう、午後だが」
「細かいことは、気にしないの! ほら、起きて、起きて!」
仕方なく、ゼロは上半身だけ起き上がった。
昼寝を邪魔されて、ゼロは幾分、機嫌の悪そうな顔をしている。
だが、アルエットは、そんなゼロにおかまいなしに、笑顔で尋ねてきた。
「今日何の日か知ってる?」
「?」
「せけんじゃ、バレンタインデーって、いうんだって」
「バレンタインデー?」
もちろん、ゼロは、バレンタインデーが何なのか知っている。
「人間の女が、好きな男にチョコレートを渡す行事か」
「うん!」
アルエットは満足げにうなずく。
「だから、ゼロも早く、シエルお姉ちゃんから、ちょこれーとを貰いに行かなくちゃ!」
アルエットは、ぐいぐいゼロの手をひっぱる。
「おい・・・」
結局、ゼロはアルエットにせかされて、しぶしぶシエルの部屋へ向かうことになったのだった。




ゼロが、シエルの部屋に入ると、シエルはモニターに向かって、一心不乱にキーボードを叩いていた。
「あら、ゼロ」
研究中だったシエルはゴーグルを外して、ゼロをいつもの笑顔で迎える。
「研究中だったのか」
「ええ。新エネルギーをさらに改良したものを作れないかなって・・」
「そうか。邪魔したな」
それだけ言って、帰ろうとするゼロを、シエルはあわてて引き止める。
「ま、待って! ねえ、もう少しゆっくりしていかない? 私も気分転換したいし・・」
シエルは、椅子を持ってきて、デスクをテーブル代わりに、ゼロと仲良く並んで座れるようにする。
そして、いそいそと、エネルゲン水晶をおやつ代わりに持ってきた。
もちろん、シエルのおやつはクッキーである。
「・・今日が、何の日か知ってるか?」
「もちろん! バレンタインデーでしょ」
ゼロが尋ねると、シエルは笑顔で答えた。
「・・・・」
「・・・・どうかしたの?」
黙ったゼロを見て、シエルは考えをめぐらせ、すぐに結論にいたった。
「・・ごめんなさい。ゼロへのチョコレート作ってないの」
「何故、謝る?」
「・・ゼロは私の大好きな人なのに、大事な日に、何も用意できないから」
シエルは悲しそうな顔をすると、手にしているマグカップに視線を落とした。
「・・チョコレート作ろうと思ったんだけど・・・・。ゼロ、食べれないでしょ」
「ああ」
レプリロイドのゼロに、人間の食べ物を食べることはできない。
「だから・・もう・・何も考えないで、最近は、ひたすら研究に没頭してたの。バレンタインデーを考えれば、考えるほど、あなたと私の違いをいやってほど、痛感するから」
人間の私。
レプリロイドのゼロ。
人間の私に、永遠はない。
でも、レプリロイドのあなたには、永遠がある。
人間の私は、年老いていく。
でも、レプリロイドのあなたは老いることはない。
私とあなたを隔てる壁。
時間は無常に流れて、私の身体を風化させていく。
そして、いつか、私はあなたとお別れしなくちゃならなくなる。
そんな悲しみを、いやでも思い知らされるから。
「いつかは・・ゼロと・・。ううん、アルエットや、セルヴォや、コルボー・・みんなとお別れする時が来るって、わかってる。どうしようもないことだって。でも、今はせめて、この時間を大事にしたいから・・それを忘れていたいから・・・・」
「シエル」
ゼロは、いきなり、シエルを抱き寄せた。
「きゃっ・・ゼロ・・・」
抱き寄せられて、シエルは真っ赤になる。
「たしかに、お前は俺たちと違う。だが、人間で、たとえ、年老いても、いずれ別れることになっても、みんなお前を忘れたりしないし、お前が好きだ」
「ゼロは・・・・?」
シエルの問いに、ゼロは不敵な笑みを浮かべる。
「お前はお前だ。たとえ、お前がアンドリューみたいになっても、俺の気持ちは変わらん」
「もう・・・・たとえがひどすぎ」
シエルは、ぷうとふくれる。
しかし、次の瞬間、ゼロの胸に顔をうずめた。
「大好きよ、ゼロ」
そして、シエルはゼロの顔を見上げる。
「あのね・・。本当は一つだけ、ゼロにあげられる、チョコレート代わりのプレゼントを考えたんだけど・・もらってくれる?」
シエルの言葉に、ゼロがうなずく。
「それじゃ・・私からあなたへ愛をこめて」
シエルはそっと、ゼロの唇に、自分の唇を重ねた。
かすめる程度のキス。
「・・安上がりだな」
「もう! あと数年したら、もっと、高くなってるんだからね」
シエルは腰に手を当てて、ゼロをにらんだ。
だが、その顔はすぐに、幸せそうな、にまにました表情に変わる。
チョコレートをあげることはできなかったが、ゼロに、バレンタインデーのプレゼントをあげることができた。
私のキス・・少しは甘かったかな。
来年は、もっと甘くなるよう、がんばるからね。
シエルは、心の中でそう思った。








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